原田マハ氏はアート小説家
原田マハ氏は1962年東京生まれ。森美術館設立の際の準備室で働いたのちニューヨーク近代美術館に勤務した実績のある国際的なキュレーターです。
近代西洋絵画がご専門ですが、今回の作品には日本絵画も出てきます。実際の知識にしっかりと支えられたうえでの小説というのは安定感があり、まだこのジャンルは他の日本人作家の追随が不可能な彼女の独壇場なのではないでしょうか。
異邦人(いりびと)の舞台
今回の舞台は京都です。
銀座の画廊も関係していますが、主人公は物語の間ほぼずっと京都で過ごしています。
多くの人がイメージすると思いますが、京都は「一見(いちげん)さんお断り」というフレーズに象徴される通りよそ者に冷たい街です。もちろん観光都市ですから観光客への受け入れはそれなりですけれど、一定レベルの遊び場や道具屋は門戸をぴしりと閉めて見知らぬものは遮断されている。
すべてはしかるべき紹介者を通してでなくてはなかなか奥深くへ進むことはできない世界です。私は親戚が京都に住んでおり、幼いころから伯母の不思議な断り方や他人(余所の人)との付き合い方を見ていました。身内の私にはそういった態度はとりませんが、よそ者認定した人にはまぁ慇懃無礼でえげつないのです。
そんな様子が一般人にもわかりやすく描かれていました。
そしてやはり京都には日本美術の重鎮とされる画家たちが多く住んできましたし、経済的な成功者の膨大なコレクション群や、代々由緒ある家系をうけつぐ風流人が守ってきた芸術的な空間・建築などが多くあります。
それらも我々一般人はアクセスできない。
主人公はその中へと次々開く扉をくぐっていきます。京都の美しい四季の行事なども織り込まれ、とても美しい作品です。
京都に興味がある方にもおすすめです。
『異邦人』の感想
京都は深い魅力をたたえた都です。
外側から中をのぞき込もうとする人にとっては神秘的で伝統文化のあふれる華やかな街ですが、内側にいる人はどうなのでしょう?
実はとても閉塞感のある街でもあると思います。一部のひとにとっては逃げ出そうとしても簡単にはいかないことが多い・・・まるでツタが足にからまって街と無理矢理一体化させられているような、そんなイメージが私の中にあります。
そのイメージと相まって、この物語にでてくる画家・白根樹の存在はけっこうリアルでした。
ただ、原田マハ氏の作品を連続して読んでいるので、そろそろ出生の秘密ネタには飽きてしまいます。途中からたぶんこういう展開だなとわかってしまうので、少々食傷気味。
別に血縁でつなげる必要はないと思うんですが。
それから、京都の美術事情はいろいろと描かれていましたが、私としてはもっと銀座の画廊の商売について色々と知りたかったです。せっかく主要キャストが銀座の画廊、および私設美術館創業者一族なのですから、このあたりの現実的な話をもう少し聞きたかった。
他の作品に書かれているのでしょうか? ちょっと探してみたいと思います。
私の美術体験
この作品ではモネの『睡蓮』もでてきます。人気ですね、モネ。
私もオランジェリー、オルセー、グルノーブル、国立西洋美術館(上野)、松方コレクション等々あちこちで見ています。睡蓮にまつわる小説も多い(『黒い睡蓮』など)。
個人的にはあまり好きではありません。ルノワールとかも今一つ。
印象派の中ではカミーユ・コローが唯一好きですが他はなんだか強く惹かれるものがないのですね。人の好みというのは本当に面白いです。
日本画についてはやはり若冲が好きです。12年前に相国寺へ行ってから大ファンになりました。彩色の花鶏図もすばらしいのですが、一色うす墨の葡萄画が最も好きです。
これを書いていて思い出したので、今年中に再訪してみます。
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