書評:『緋色の迷宮』 トマス・H・クック著

書評

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トマス・H・クックはアメリカの作家

初めて読む作家です。

家族問題や青少年犯罪などを題材にしたノンフィクションに近い小説を多く書いています。

少年少女の殺害事件や自殺などによって、その兄弟・友人がうけるトラウマや両親の苦難についてや、一家惨殺の生き残り少年の真実模索など、幸せな家族が突然見舞われる出来事から崩壊していく様子を、心理面から丁寧に描いています。

このあと、2~3冊読んでみようと思います。

『緋色の迷宮』の舞台

幸せな3人家族が、ある事件をきっかけに翻弄され、「あれ?私たちは本当に幸せだったのかな?」と疑問を呈するに至ります。

主人公のエリックはショッピング・モールで写真店を経営しています。

勤勉な従業員が1名いて、季節ごとの差はあるものの売上も安定、順調です(デジカメが流通する前の時代ですので、写真店は一定の需要がありました)。

妻は短期大学で講師として活躍していて、エリックはその外見にも満足しています(あまり老けていない、という意味ですね)。

ティーンエイジャーの息子は友達が少なくちょっと心配ですが、健康で学校にもきちんと通っています。

エリックは自分の家族を最高だと感じてとても満足しているのでした。

そんな時、町で8歳の少女がいなくなる事件が起こります。これをきっかけに、様々な疑惑や不安がエリック一家を襲いはじめ、事件に巻き込まれていきます。

エリックが幸せだと思いこんでいた物事は、実は虚像ではないのか?

本当は真実から目を背けて「自分がそうあってほしいもの」「自分が信じたいもの」をむりやり事実だと思いこんでいるだけではないのか?

物事は、違う角度からみると全く別のモノに見える。

普通の人々が陥りがちな、ごく当然の思考回路を別の視点からとらえるきっかけを与えてくれます。

でも、やはり家族を信頼し、愛する人を信じる事は大切なんですよね。

とてもつらい現実的なストーリーである一方、トマス・H・クック氏が作品を通して語る「人間」について、私は救いを感じました。

猟奇的な事件を扱った過激な小説も最近は多いです。読後にひどい虚脱感と絶望感を感じる作品もありました。

けれど、この『緋色の迷宮』は現代社会で私たちがよく遭遇するひどい事件(幼女誘拐事件)を扱いながらも、著者が主人公を通して語ることばやラストシーンに希望を感じるのです。

偶然手に取った本ですが、良書でした。


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