書評:『王国』中村文則著

書評

中村文則さんの書評がつづきます。

王国 (河出文庫) [ 中村文則 ]価格:550円
(2021/11/18 18:11時点)
感想(2件)

最近評判の『R帝国』と勘違いして、『王国』を読みました。

王国 [ 中村文則 ]

価格:1,404円
(2017/12/26 10:30時点)

中村文則さんについて

1977年生まれ。

2002年25歳、『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。

若くして文壇に登場し、ずっと活躍し続けておられる作家さんです。

ドストエフスキー、カフカ、カミュに影響をうけたそうですが、この方サルトルやマラルメあたりもかなり読み込んでいる気がします。

『掏摸(すり)』では大江健三郎賞を受賞。

これなんかはジャン・ジュネの『泥棒日記』を連想させます。

不条理の哲学ともいわれる、カミュやサルトルの空気をまとった小説群に興味がひかれます。

現在40歳、作家としてはまだお若くてびっくりです。そして多産なのも驚き。

交友関係も幅広く、芸人で作家の又吉直樹さんや俳優の綾野剛さん、音楽家など他分野に友人を持つ社交的な一面もあるそうです。

あらすじ

主人公ユリカは美人局(つつもたせ)のような仕事をしています。

正確には謎の男「矢田」にいわれたまま、官僚や会社重役などにコールガールとして呼ばれてホテルに入室。即効性の睡眠薬で相手を眠らせスキャンダル写真をとったり、重要な情報を盗んだりしてデータを矢田に渡す役目です。

ある理由から大金が必要になり、高額な報酬を必要としていた時に矢田と出会い、始めた仕事。しかしそのうち大金は必要となくなり、特に理由もなく、生きる執着も薄れた中で彼女はこの仕事をつづけています。

矢田は暴力団関係者かと思いきや、もっと別の勢力から雇われた裏社会の人間のようです。

そしてそれに対立する勢力?を取り仕切るもう一人の男「木崎」がユリカへ接触してきます。

生きる事への執着

このユリカという女性も不幸な生い立ちで施設で育っています。

一時、自分が生きる支えというか存在理由のようなものを得るのですが、それをなくした後は、自分は生に執着していない、と思い込んでいます。

他人からも、弱みがなく、死ぬことを恐れていないと思われていますが、

でも彼女の奥底にはやはり生きていく意思が明確に見えています。

不幸な生い立ちであり、状況なのですが、非常に強い女性です。

『あなたが消えた夜に』の科原さゆりとは同じような不幸を背負っていながらも、ユリカは強い。

物語の中でユリカは頻繁に月を見上げるのですが、月がユリカを見守っているから強く在れるような気もしました。

王国 (河出文庫) [ 中村文則 ]価格:550円
(2021/11/18 18:11時点)
感想(2件)

引っかかった点

ただ、一つひっかかったのは、終盤「この男の子供を、お前の中に」というフレーズです。

ここは、女性の私からみると、「子供を産む」ということに対して男性が持っているイメージが多分に入り込んでいて、女性が心の底から吐き出した感情というには、リアルさがありませんでした。

おすすめ度

一日ですぐ読めました。

登場人物が少ないのでわかりやすいですし、ささっと読めます。

少しリアリティに欠ける設定がいくつかありましたが、人物描写はよかったです。

『あなたが消えた夜に』の方がずっと読みごたえがありました。こちらはさらりと読み流す程度になりました。

『掏摸』と連動しているようですので、そちらも読んでみたいと思います。

しばらく、中村さん読書が続く予定です。


コメント

タイトルとURLをコピーしました