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中村文則氏の『教団X』や『R帝国』が書店でたいへん人気の様子。
存じ上げませんでしたので、いまいくつかまとめて読んでいます。
中村文則さんについて
1977年生まれ。
2002年25歳、『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。
若くして文壇に登場し、ずっと活躍し続けておられる作家さんです。
ドストエフスキー、カフカ、カミュに影響をうけたそうですが、この方サルトルやマラルメあたりもかなり読み込んでいる気がします。
『掏摸(すり)』では大江健三郎賞を受賞。
これなんかはジャン・ジュネの『泥棒日記』を連想させます。
不条理の哲学ともいわれる、カミュやサルトルの空気をまとった小説群に興味がひかれます。
現在40歳、作家としてはまだお若くてびっくりです。そして多産なのも驚き。
交友関係も幅広く、芸人で作家の又吉直樹さんや俳優の綾野剛さん、音楽家など他分野に友人を持つ社交的な一面もあるそうです。
『あなたが消えた夜に』の主人公(ネタバレなし)
簡単に言えば推理小説になるのでしょうか?
殺人事件が起こり、警察がそれを解決していきます。
最初は、本庁v.s.所轄、管理官v.s.理事官、の縄張りや権力争いのような要素もでてきて、よくある刑事ドラマの原作みたいだな~とも感じるのですが、語られている本質は全くちがいます。
主人公は所轄の刑事・中島。
不幸な生い立ちで育ったけれど、刑事として優秀。バツイチ。
不思議ちゃんならぬ不思議君な一面もあります。
そしてその相棒として組まされているのが、
捜査一課の若い女性捜査官・小橋。
こちらも優秀です。が、時々本当にクスッと笑ってしまう言動があり、物語のよいエッセンスになっていました。
女友達は少なさそうな気が…します。
印象的な登場人物
あまり書くとネタバレになるので、ひとりだけ。
殺人被害者と以前交際していた、OL・科原さゆり。
もう登場シーンから薄幸な空気を醸し出しています。
こういう女性、いますね。
女性はちょいワルな男に惹かれがちとよくいいますが、
男性も薄幸そうな女性を助けたい、支えたい願望の強い人がいますよね。
もちろん一概には言えませんし、恋に落ちる時は気づいたらそうなっているので簡単に説明できることではないと思いますけれど。
劇画『オルフェウスの窓』池田理代子著の中にとあるセリフがあります。
すぐれて美しいとか、ピアノが上手だとか、
人が人を好きになる理由はそんなところになるのじゃない。
優しさや人柄ゆえに必ずしもすきになるともかぎらない。
なにかひとつ魂と魂がかさなりあうわずかの切り口があればいい、
すこしの悲しみを知っていれば十分だ。
この科原さゆりも、自分の傷口が相手の傷口とかさなる瞬間にとても敏感な女性です。
そしてもちろん相手の男性もそのことがはっきりとわかる。その男性も傷口に自覚があるから。
それが重なってしまえば、もう他に理由はない。
けれどその後どんな恋になるかは、やはり人それぞれなんですよね。
なかなか周りにいないタイプの女性で、ショックをうけました。
そして、ネタバレになるので詳細かけませんが、ある男性がやはり物語のなかで大きな存在となっています。
そして彼はサルトルの『悪魔と神』で繰り返される主人公ゲッツの不条理への訴えや、同じくサルトルの『汚(けが)れた手』の主人公一団と同じ感情を、この小説のなかで爆発させています。
興味深いリンクの仕方だな、と思いました。
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おすすめ度
先ほど書いたとおり、警察推理小説ではありません。
本当に人の心をえぐった小説です。男女の情愛も様々に描かれていますが、それも人間の本質を語るための手段にみえます。
人の愛のあり方、トラウマ、精神、洗脳。
考えさせられる要素が多くて、読みごたえがありました。
中村さんの小説は不条理哲学のように、最後明快な解決を説明しないものも多いですが、
こちらは不条理を扱いながらも、きちんと色々なものが最後に明確になりますので
『糸杉』や『嘔吐』でモヤモヤ観に悩んだ方も楽しめるでしょう。
とても印象深い小説でした。
精神的に不安定な方は年末年始にたった一人で読むのはおすすめしません。
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