本日は書評です。南海トラフの脅威と共存する我々にはかなりリアルです。
ウィーン生まれのコラムニスト&広告ディレクターであるマルク・エルスベルグは、2011年3月11日のフクシマ原発事故に衝撃をうけ、2012年にこの小説「ブラックアウト」を刊行しました。
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ヨーロッパではたちまち話題となり、各国語に翻訳されてベストセラーになった小説です。
小説の内容(ネタバレなし)
真冬の北イタリアで突然広範囲にわたって停電が発生。機能しなくなった信号機のせいで交通事故がおこり、主人公マンツァーノが巻き込まれてケガをするシーンから物語は始まります。
普段ならすぐ到着する救急車もなかなか来ない。そのうち街の明かりが消えていて大規模停電が起こっていることにマンツァーノは気づきます。
たいへんな目にあいながらもなんとか帰宅。暗く寒い部屋で、隣人ボンドー二とワインを飲みながら過ごしますが、この時あることから停電の理由を予測したことで、彼の運命が怒涛の豪流へと放り投げられるのです。
当初はイタリアだけの問題かと思われていましたが、スウェーデン、フィンランド、スイスも同じ状態に。2日目にはドイツ、フランス、スペイン、東欧を含む全域で電力供給が不具合を起こし、停電が広がっていきます。
原子力発電所、火力発電所、風力発電所、水力発電所、あらゆる発電所でトラブルがおこりますが、その原因を誰も特定することができません。
各発電所が作った電気を各家庭へ送電するシステムを構築する会社でさえも大規模停電の理由がわからず、本当に電気の供給がヨーロッパ中でほとんど止まってしまうという悪夢がはじまりました。
小規模の停電や極寒期の電力不足はもともと想定されており、欧州内では国家間でも電気の貸し借りややりくりが日常的に行われており、自国が困った状態に陥ってもお隣の国に助けてもらえます。
これはEUヨーロッパ共同体の利点とも言え、ベルギーのEU本部内にこのような調整を行う部署があります。
しかし、欧州全土でとなると話は別。各国の国家元首や大臣たちも対応に奔走しますが理由がわからなければ何とも対処しようがありません。
そして、何とも恐ろしいのが3日以上停電すると一般市民の生活はもう成り立たなくなるという事実です。数々の具体的な恐怖が次々と描かれ、絶望的な気分になります。
照明・暖房・食料・水これらの供給がストップ。
トイレも流れず悪臭が立ち込めます。お風呂ももちろん入れません。
電子マネーやクレジットカードが使えないため、店頭にわずかに残る食料品も現金でしか購入できません。
驚くべきことにガソリンスタンドも電力がとまると、ポンプ?やメーターが動かないため、ガソリン販売ができないのです。
スーパーマーケットなども、商品が補給されませんから略奪のあとはもう空っぽ。
そのうち倉庫が襲われて混乱が広がり始めます。
自家発電を持つ農家や施設にも大勢の市民が詰めかけて秩序や性善説は否定されていきます。
そんな混乱の中、マンツァーノは理由を突き止め、必死でそれを政府機関やEU本部に伝えようとしますが、様々な問題が彼に襲い掛かります。
事故の原因をスクープしようとする米国人ジャーナリストや、現場で必死にがんばる発電所スタッフの様子、水面下で権力争いを激化する企業や政治家、原発事故の隠ぺいなど様々なドラマが、物語の緊張感をますます高めていきます。
一方で、暖炉とまきで火をおこし、雪を溶かして飲料水やお風呂に使う山間部の宿泊施設の様子などの描写は興味深く、都会ほど停電の厳しさが直撃することをあらためて認識しました。
文明社会が3日の停電でどうなるのか、10日におよべば何が起こるのか、このあたりのパニックと問題点が正確な取材に基づいて描かれています。
そしてこのような極限状態でうまれる様々な人間ドラマも丁寧に描かれており、ただのパニック小説ではおわりません。
ヨーロッパ全域での停電というテーマのため、物語の場所が、オランダ、ドイツ、イタリア、ベルギーなど広範囲にわたる点、
それぞれの街に主要人物がおり、密接に関係している点、
この2つの点から最初は状況がわかりにくく、最初は理解に時間がかかるかもしれません。が、全体の4分の1(上巻の半ば)あたりからは、どんどん読み進めることができます。
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電力がなくなるということ
さて、日本は地震や豪雨、津波、火山噴火などで被災した経験をもつ国民が多数存在します。それに国民のほとんどが被災した時の状態をテレビニュースなどで目にしており、ある程度理解しています。
日本は災害になれているため、こういった緊急事態にかなり冷静に対応できる数少ない国民ではないでしょうか。
ただし、これは被災した場所が1か所で、3日ほど待てば必ず救助がくる場合の話です。
この小説では、広範囲にわたった停電でほぼ全域の国民が助けを待っています。
電力が供給されないということは、家庭においては明かりも暖房もない状態。スマホやPCの充電もできません。電話も通じません。
電池がなければラジオも聞けず、情報が入手できず不安が募っていきます。
また、電子マネーやクレジットカードも使えなくなります。
日本と違い、欧州ではATMでの引き出し限度額が低く、手持ちの現金はすぐになくなってしまいます。銀行の支店には預金を引き出そうと市民が殺到しますが、3日目には支店で保管している現金も底をつきます。
だれも、3日以上停電が続く事態など想定していないのですから、当然でしょう。
スーパーマーケットや食料品店も、レジが動きませんしロジスティック管理がストップするため、通常営業ができません。パニックで殺到する人々がスーパーへなだれ込むけれど、レジでは従業員がひとつひとつ値段を調べながら旧式計算機で計算をしていくしか決済の方法がありません。
上記にもガソリンスタンドの問題を書きましたが、ヨーロッパは車社会ですのでガソリンは生活必需品です。
電力がなければガソリンスタンドも機能せず、ガソリン補給ができません。
小説の中では、他人の車からガソリンを抜き取って自分の車に補給する人々のことも描かれていますが、究極の状態では十分ありえる行動です。
重要な行政機関には自己発電機が電力をなんとか供給していますが、それにも限界があります。
病院では電気もなく水も枯渇。病院の設備が機能しなければ死を待つだけの重度入院患者を安楽死させていく医師も現れるかもしれません。
原子力発電所も、自己発電に不具合や限界がくれば大事故を起こします。小説のなかでは、何とかフランスの原子力発電所に自己発電に使うガソリンを供給しようと奔走する人たちの姿も描かれていました。
電力のありがたみを感じると同時に、何もかも電気とコンピュータシステムに頼っている我々の社会の危うさに恐怖を覚えました。
311の欧州の反応
皮肉にも、マルク・エルスベルグにこの小説を書かせたきっかけは2011年3月11日の東日本大震災および東京電力福島第一原発事故です。
当時、地震や津波の酷い映像に欧州は戦慄しましたが、その直後の日本人の秩序ある被災生活にかなりの衝撃をうけていました。
略奪や暴力がほとんどなく、人々はパニックにならずに、規則をまもり配給の列に忍耐強く並ぶ。世界に誇れる日本人の民度の高さです。
しかし、その一方で原発事故の隠ぺいは大問題となり批判を受けていました。
当時、私は東京で震度3か4程度の地震を体験しましたが、原発事故のことはよく理解していませんでした。
が、3月11日夜になり、欧州が朝を迎えると一斉に取引先や知人から電話とメールで大量のコンタクトがあり、「原発が危ない。すぐ東京を脱出するように」という連絡がありました。
日本での報道と真実は異なるという説明も多くもらい、危険性を理解。外部被ばくと内部被ばくをさけるべく、できる範囲の対処をし、大阪へと移動しました。
3月14日には東京在住のフランス人が政府チャーター機で一斉に本国へ避難。
海外の航空会社乗組員が、成田乗り入れを拒否したため、東京発着のフライトが大量キャンセル。
これらの事実も当時の危険性をよく物語っていました。
日本ではほとんど報道されませんでしたね。
マルク・エルスベルグはこういった当時の日本の状況を色々と取材し、ヨーロッパで同じようなことが起こればどうなるかという着想を得たのでしょう。
ですがしかし、このような悪夢にはできれば遭遇したくありません。
備えあれば憂いなし
皆さんは災害備蓄をしていますか?
私の場合、3日分は、食品・水・トイレの準備万全です。
が、この小説を読んで1か月分の備蓄を目指して買い足しを始めました。
ミネラルウォーター60本。
缶詰類(目標50個)、レトルト20個、乾麺(パスタ、そうめん)5Kg、
現金(1000円札たくさん)、乾電池、懐中電灯、ラジオ、薬、消毒薬、
ポリタンクに水道水(トイレの汚物を流すため)、ウェットティッシュ
ろうそく、カセットコンロ・・・
ほぼ7割そろいました。
「いつかやろう」「そのうち準備しなきゃ」、そう思ってる方、多いと思います。
でもあなた自身や心身をまもるために、今日1個の缶詰からでも1本のミネラルウォーターからでもいいですから災害に備えるものを買ってください。
そして、ぜひ今の電力の恩恵について考えてみてほしいと思います。
こんなに必要なんでしょうか。
一軒家に1枚、ベランダか屋根にソーラーパネルを設置すれば、ここまでコンピューターと電力システム、発電所、電力会社に依存する必要ないのでは? そんな気もしています。
これをきっかけに、エネルギー問題も少し考えてみようという気になりました。
ご興味のある方、『ブラックアウト』ぜひご一読ください。
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